第50章 無常 〔山鳥毛〕
山鳥毛はさりげなく『年寄り』と平気で審神者を揶揄する言葉を使うものの、審神者もそれは気にせず小さく微笑んだ。
「お気遣いくださってありがとうございます。こんなおばあちゃんでも皆さん優しくしてくださって、本当にこの本丸で働けて幸せでした」
「ここに来るのが私に決められた定めならば、私は貴女が去るまで私に与えられる役目を果たそう」
山鳥毛の穏やかな表情に審神者も微笑む。
そこへ平野と前田が静かに廊下を歩んで、部屋の前に座って声を掛けてきた。
「主様、おかげんはいかがですか?おかゆをお持ちしました」
「大丈夫ですよ、前田、平野。お入りなさい」
立つのと同様に静かに障子を開ける平野と前田は、もともと婦人の守り刀としての役目を果たす短刀だったため、この審神者が一番目をかけている二振りだった。
「主様、顔色がいつもより良いですね」
二振りは山鳥毛にぺこりと頭を下げ、平野が話し掛けている間に前田がてきぱきと審神者が粥を食べられるように準備をする。
「ありがとう。今日は山鳥毛さんがお話しに来てくださったから嬉しいのですよ」
ほほ、と笑って審神者は匙を手にすると、前田が「ぼくたちではお慰めになりませんか?」とちょっと拗ねたように言う。
「とんでもない。貴方たちは本当に私の一番の近侍としてよく働いてくれました。感謝してますよ。新しい審神者様…あのかたも皆さんを愛して大切にしてくれますよ」
次の審神者も一度見学に来ていて、その年齢の割りに穏やかな性質が本丸の雰囲気に調和している、とこの審神者は思っていた。