第50章 無常 〔山鳥毛〕
「あるじ…さまぁ…」
平野や前田たち、短刀がしゃくりあげるのを、一期が背中をさすって抱きかかえる。
いつも明るい和泉守兼定や次郎太刀も口を開かず、本丸は静かだった。
「…人の寿命は…儚いものだね…」
廊下に座る山鳥毛の姿を見掛け、歌仙兼定が声を掛ける。
「あぁ…小鳥の最期の姿を今でも覚えている…年寄りと言っても微笑んでいたな」
「主は最初にこの本丸に来てから、50年以上ぼくたちと過ごしてきた。いつも笑顔で滅多に怒る事もなく、ぼくたちが出陣すると怪我をしていないかと心配ばかりしていたよ」
その時を思い出すように歌仙の眼差しは遠かった。
「私は最近来たから若い頃の小鳥の姿は想像つかないが、さぞ愛らしい容姿だったのだろうと思う」
山鳥毛の言葉に歌仙は笑む。
「あぁ、それは愛らしかった。和泉守に惚れこんでいたけどね、彼は硬派な刀だからヒトと恋仲になるなんて、という考えで、とうとうどの刀とも恋仲になる事もなく一生を終えたね」
「ほう。審神者と刀が恋仲になる事もあるのか」
山鳥毛は少し驚いた口調で尋ね、歌仙は「あぁ」と頷く。
「新しい主と演錬に出ればわかるよ。恋仲の刀がたいてい近侍になっているし、それぞれの主にべったりだからね」
なるほど、と山鳥毛は理解する。
「私は古い刀だからな、そういう事からは遠いところに居るさ」