第9章 貴女は堕ちて、ぼくに。 〔燭台切光忠/R18〕
宴会当日、朝からぼくと歌仙くんで手分けして準備を始める。
するとエプロンを着けた主も台所に顔を出してきた。
「遅くなってごめんなさい、手伝います」
エプロン姿が可愛い主に一瞬見惚れるけれど、今はそれどころじゃないからそんな感情は振り払い、野菜の皮むきをお願いすると、包丁を持ってするすると皮を剥き出した。
すごくうまい訳ではないけれど、手つきは慣れたものだな、とチラリ確認する。
「ごめんなさいね、宴会するなんて気軽に言ってしまって、二人に負担を掛けてしまいました。後で二人には何か御礼をしたいから、どうして欲しいか考えておいてくださいね」
皮むきをしながらぼくたちをねぎらう主に、歌仙くんは言う。
「御礼か…そうだな、なんでも良いなら主の一晩をもらおうかな」
「え…?えーと、それは…」
歌仙くんの言葉に主は口ごもるものの、歌仙くんは笑いながら冗談、と言った。
「主は冗談に簡単に引っ掛かる人だな」
歌仙くんは人差し指で主の額を突つきながら笑う。
冗談という言葉にちょっと安心したような表情の主も笑いながら言う。
「もう、歌仙さんたら冗談が過ぎますよ」
「ま、何か考えておくよ」
軽く言って歌仙くんは調理に戻る。
無言でその様子を見ていたぼくを、ちらりと見た主とぼくの視線が合う。