第46章 肥前、捻じれた世界へ行く 〔肥前忠広〕
「わぁっ、助けてくれぇ」
別なところから声が上がるものの、おれは目の前の相手と対峙していて動けない。
さっさと逃げて隠れていれば良かったのに、とおれは遡行軍を斬りながら内心舌打ちする。
それにしてもかなりの数が現れているようで、おれだけが相手をするには時間遡行軍は多い。
倒しても次々と現れてかかってくる遡行軍に、おれは少々てこずり出していた。
更に何を目的に生徒たちのものを盗もうとしているのかその理由もわからずにいる中、おれだけでは太刀打ちできない数の時間遡行軍が現れた。
「うわぁ、また出たぁ」
「助けてくれーっ」
外聞憚らず、やつらの姿を見て逃げ出すやつが続出するのは当然だろう。
おれだけが遡行軍が囲む輪の中に残り、自分はこれで刃を折られるだろうと覚悟をした。
主…まっすぐ感情を出せないおれを、それでもひとりひとりに愛情を注いでくれるその姿、折られる前にもう一度会っておきたかった。
時間遡行軍が自分の手持ちの武器を持ち直し、おれにまとめてかかってくる。
おれは、自分の行動が全てスローに見えたのは、刃が折れるつまりおれが死ぬという事だろうと感じた。
胴払いし、袈裟掛けに斬り付ける、それでも他の遡行軍がおれのところへ襲い掛かる。
さすがにこの数は相手に出来ない。
おれは考えがまとまらないまま、半ばヤケに目の前の敵だけを斬り込んでいた。