第46章 肥前、捻じれた世界へ行く 〔肥前忠広〕
勝手に留学生にされたんだが、と内心思いながらも、そういう立場でいないと滞在出来ないのだからしかたない、と腹をくくる。
「…そうだが」
おれがぼそりと答えると、制服が着崩れているにも関わらずおとこが見ても色気を感じさせるそいつは、どかっと隣に座ると片ひじを机についてこちらを見ながら言ってきた。
「ねぇ、魔法が使えないのにどーしてここに留学したのぉ?」
その表情と口調は完全な好奇心だった。
おれは仕方なく黒づくめと事前に合わせていた事をそいつに言った。
「魔法が使えないから、むしろ使えるということはどういうものなのか知りたくなって、学びに来た」
「ふぅん。んで、どう?もう魔法はなにかしか目にしたの?」
おれの答えにつまらなそうに返事をしたやつは、魔法をもう目にしたか聞いてきた。
「いや、まだだが…」
見た事が無いと答えると、ぱっとやつは表情を楽しそうに替えた。
「んじゃ、後でおれが見せてあげるよぉ、おれの魔法、見てみたくない?」
見たくもないしこいつと関わりたくないのだが、どういう訳か自分の魔法を見せてやると嬉しそうに言ってくるので断ることは出来なかった。
「…わかった、頼む」
「いいよぉ、あ、おれ、フロイド・リーチね」
そういえばそんな名前だったな、とおれも「肥前忠広」と名乗ると、「ヒゼンタダヒロ…変わった名前だなぁ」とまゆをへの字に曲げて言われてしまった。