第46章 肥前、捻じれた世界へ行く 〔肥前忠広〕
寮長と言われても何のことだかさっぱりなので、一緒に歩くやつらの会話を黙って聞いていた。
アーシェングロットというおとこは非常に商売上手で、相談に乗ると言って対価という代わりのものを払わせる、その対価はとても高額だとやつらは話しておりおれはそれを聞きながら、そんなに守銭奴なら博多藤四郎とどっちが上だ、と考えていた。
「さっき、アーシェングロットの両側に背の高い二人がいただろう?」
一緒にいるやつらが少し声をひそめておれに言う。
「あいつらリーチ兄弟って言うんだが、特に気を付けろよ。とにかく危険だからな」
どう危険なのかわからず無言でいると勝手に話し出す。
「きちんと制服を着ていないほうがフロイド・リーチ。こいつはとにかく怒ったら手がつけらんない。気まぐれで気分が乗らないと何もしないけれど、気分が乗ると天才肌でなんでもこなす。制服をきちんと着ているほうがジェイド・リーチ。一見穏やかで言葉も丁寧だから安心しきってしまうけれど、こいつのほうが余程性質が悪い。とにかくリーチとアーシェングロットには貸しを作らないことだ」
おれは話しを聞きながら、この兄弟は本丸の誰に似ているだろう、と頭を巡らせる。
気分屋と言ったら鶴丸国永っぽいが、あいつは暴力的ではないし、考えなくても本丸には暴力を喜んで振るうやつはいない。
該当するやつはいないな、と思っているうち、移動先の教室へ到着し、席へついた。
「隣、いーい?」
座ってぱらぱらと借りた教科書を眺めていると、いきなり声を掛けられる。
声の持ち主を見ると、先程聞いたばかりのリーチ兄弟の服装が崩れているほうが、にぃと尖った歯を見せてこちらを見ていた。
「あんた、魔法の出来ない留学生だろ?」