第46章 肥前、捻じれた世界へ行く 〔肥前忠広〕
「肥前さん、移動ですよ」
話し掛けてきたのは同じ教室で学ぶアズール・アーシェングロットという優等生だ。
ほうきにまたがって空を飛ぶ飛行術と呼ばれるものを非常に苦手としているが、それ以外の成績は非常に優秀で、それはこの世界に来たばかりのおれですらわかった。
「いかがです?留学生活は?」
話し掛けられ、学生になぞなった事のないおれにはどう答えていいのかわからない。
「あぁ…なかなか、だな…」
ごまかすように適当に答えると、おれの状況を全て理解しているかのように「そうですか」と笑みを浮かべる。
表面上の笑顔というのは非常にうさんくさい。
このおとこはまさしく顔を作れるやつで、領域に踏み込ませるな、と自分の本能が警告していた。
「何か困った事がありましたら、いつでもぼくにどうぞ」
さらりと声を掛けるとすぐおれから離れ、いつも一緒にいる背のやたら高い双子と一緒に移動して行った。
「はぁ」と面倒なやつが去ったと小さく息を吐き、借りている教科書を持って移動しようとすると、他の同じ教室の生徒が話し掛けてきてくれ一緒に教室を移動した。
「面倒なやつに目をつけられたな、留学生」
「あぁ?」
廊下を歩きながら彼らに言われて意味がわからず、言い返すとさっきのだよ、と言ってきた。
「あのアーシェングロットだよ。次のオクタヴィネル寮の寮長候補筆頭だぜ」