第42章 秋霖 〔鶯丸/R18〕
しばらく口を開けては閉じを繰り返した雅は、ようやく言葉を口に上らせる。
「そりゃあ、審神者になった今より、なる前の生活のほうがまだ長かったからね、全く思い出さないと言ったら嘘になるよ。でもね」
そう言って雅は座っていたところから立ち上がり、俺の目の前に移動して座ると、俺の頬に片手を伸ばした。
「審神者がどんなものかわからなかったから不安だった。でも鶯丸さんがずっと側にいて、私にひとつひとつ丁寧に仕事を教えてくれたし助けてくれた。おかげで私の中から不安の文字は消えて、いつしかここで審神者として皆さんを助けていくのは自分の天命なんだ、一生を賭ける仕事をしているんだって思うようになったよ。私が今、ここで生活出来ているのは、全て鶯丸さんのおかげなの。ありがとう」
ふわりと微笑む笑顔が美しくて、俺は頬に伸ばされた手を自分の手で受け止め、そのまま抱き締めた。
「主…雅…そんなに俺のおかげなら、褒美をもらっても良いのかな」
雅の背中を指で下から上へなぞると、小さく身悶えする。
俺の言う褒美の意味がわかったらしく、「うん…」という返事がした。
「鶯丸さんが相手なら…嬉しい…」
「…嬉しいのはこちらだ…雅、優しくするから…」
俺は雅をそっと横たえ、顔にかかった髪の毛を指でそっと横へ流す。
雅の瞳は俺だけを映して、まだ何もしていないのに色香を含んでいた。
「…白檀には媚薬の効果は無いんだけど…」
「え?何?」
俺のつぶやきに反応する雅。