第42章 秋霖 〔鶯丸/R18〕
雨が音も無く降る。
障子を少し開け、けぶる外を眺める雅の姿を、俺は廊下の反対側から見る。
「主」
声を掛けると、はっとしたようにこちらを見る雅。
一瞬、その表情はどこか遠くを見ているようで、それは審神者になる前の生活を思い出しているようなそんな様子に思えた。
「何を見ていたんだい?」
俺の問いにちょっと肩をすくめる雅。
「ううん、雨が止まないなぁって思っていただけ」
部屋の隅から空薫物(そらだきもの)の香が静かに燻る(くゆる)。
「…この香は白檀か」
俺が香りを当てると、雅はちょっと笑みを浮かべる。
「さすが鶯丸さんね。香りの種類までわかるんだ」
「そりゃあ、俺もそこそこ年を経ているからね」
ふふ、と笑みをこぼす雅に俺は真顔で問うた。
「もしかして、ここに来る前、審神者になる前の生活に戻りたいんじゃないのかい?」
驚いた表情でこちらを見る雅。
その表情はまるで『どうして気付いたの』と言わんばかりのものだった。