第8章 交差しない、けれど愛する 〔一期一振/R18〕
雅はそうそう、ともう一人の人物の事を聞く。
「石田殿はそうですね、物腰が柔らかくどちらかと言うと、武の人ではないですね」
「武…つまりちからでどうこうするタイプではないって事?」
「そうですね、普段からあまり前線に出る人ではありませんしね」
「つまり作戦を考えたり、後方支援が得意な人って事かな」
「そういうかたですね…それにしてもこの羊羹は上品な良い味ですね」
一期は羊羹を口にして、にこりと微笑んだ。
その微笑みはあくまで品が良く、刀としての出自が良い事が雅ですらわかった。
「一期が気に入ったなら良かったよ」
一期の微笑みに雅も一緒に笑みを浮かべる。
すると、小さく切った羊羹を一期は、雅の口元へ寄せる。
「主もどうぞ」
寄せられた羊羹に「え…」と困惑する雅に、一期は困った顔をする。
「私からのものは口に出来ませんか?」
「…あ、いや…そういう事ではなく…だって一期の分だし…」
「私は主にも食べてもらおうと…ああ、こうしましょう」
一期は黒文字を自分のほうへ向け、自分がぱくりと羊羹のかけらを口にする。
そして顔を雅のほうへ近付け、ごく至近距離まで寄る。