第39章 出会いは不思議を運ぶ 〔乱藤四郎〕
「浮輪に絡んできたのが手じゃなくてタコの足だったんだよね。それにからだの色がヒトとは違う色だったし、こども心にああ、ヒトじゃないんだって思ったんだよねぇ」
そのまま主さんは話しを続ける。
「でもね、とっても親切だったよ。私を慰めてくれながら陸近くまで運んでくれたんだ」
「ふぅん。また会えるとは思わない?」
「そうねぇ、会えたらお礼をもう一度ちゃんとしたいけどねぇ」
少し遠い目をする主さんに、ぼくはふと気になって聞いてみた。
「主さん、その時のお礼って何かしたの?」
するとぼくを見て、ちょっと赤くなって慌てたように答えた。
「あ…えっと…まぁこどもだったからね…気にしてなかったもんだから…」
「えー、なーに?そういう風に言われると気になるなぁ」
ぼくが更に突っ込むと観念したように主さんは言った。
「まぁこどもだったしねぇ。助けてくれたお礼に人魚たちにキスしたんだよね」
ん?人魚「たち」?キス、した?
ぼくは主さんの発言をもう一度咀嚼して、「え?」と聞き直した。
人魚ってひとりじゃなかったの?
「あれ?言わなかった?タコの人魚の他にヘビの人魚がふたりいたよ」
海にヘビっているの…あぁ海ヘビの人魚かぁ、変わった人魚がいるんだなぁ、と思いながら主さんに聞く。