第37章 とある本丸がとある本丸になる前に 〔堀川国広/R18〕
意味がわからず瞬きするぼくにその男士はひそりと言う。
「かなり変わった主だけどやっぱり男だからね。たまにヒトとして女が欲しくなるんだ。今頃本来の主の世界で愉しんでいるだろうよ」
ああ、そういう事か。
ぼくの前の主も遊郭に行く事が有ったから、それなりの年齢を重ねた男女が何をするのかは知っている。
「?」
ぞわり、とその瞬間、からだの芯が熱を帯びたように感じる。
でもその感覚はすぐ消えた。
おとなの男女間の事を思い出したため、一瞬欲情してしまったかもしれない。
刀剣男士たるもの、欲にはうち勝たなくては、とぼくは頭を振ってその思考を追い払う。
でも雅さんを見ていると、そのおかしな気持ちが高ぶってしまう。
自分のからだに静まれ、と命じても、その欲が心底から沸き上がってくる。
けれど、あまりにおかしな欲情のしかたにぼくは気付く。
そういえば任務から帰った時、主がおかしな事を言っていた。
おかしな匂いがする、と。
出陣してからの行動を思い出してみる。
ぼくは時間遡行軍の脇差を斬り返り血を浴びたけれど、同時に出撃した男士たちは脇差の返り血は浴びていない。
その部隊に脇差は一体しかおらず、同じ脇差のぼくが相手をしたんだ。