第37章 とある本丸がとある本丸になる前に 〔堀川国広/R18〕
「あ…いいえ」
ぼくは何と言ったら良いのかわからず、適当な返事をしてしまい、するとくすくすと笑われた。
「私には敬語は要らない。そんなに緊張しなくて良いんだけど」
その可愛らしい笑顔にぼくは惹き付けられるものの、相手は審神者の妹だ。
彼女に何故か触れたくなった思いをぐっと堪え、「わかりました」と返事をした。
「雅ちゃん、光忠がきみにずんだ餅を作ってくれているよ」
他の男士が声を掛けると、彼女の意識はぼくからそちらに向き、「わぁ、嬉しい」と男士たちに囲まれ広間へ移動していくので、ぼくも一番後ろからその集団を追い掛けた。
「うーん、本当に美味しい」
ずんだ餅を食べる雅さんは、嬉しそうに顔をほころばせる。
「そういえば主はどうして姿を見せないの?」
ぼくは自分の妹が来ているのに、主が顔を出さないので不思議に思って聞いた。
「あ、そうか、まだ知らなかったか」
他の男士がぼくにそっと教えてくれる。
主の妹がこちらに来る時、主は本来の時代でこの妹に知られたくない事をしているから、主が入れ替わりでこの本丸に居ないのが当然という事だった。
「知られたくないって…何をしているの?」
ぼくがぽかんとして問うと、男士は「参ったなぁ」といった表情をして教えてくれた。
「おんな、だよ」