第37章 とある本丸がとある本丸になる前に 〔堀川国広/R18〕
「誰かから、おかしな匂いがする」
主に言われ、各自着ているものの袖を鼻先へ持っていって匂いをかぐものの、おかしな匂いがわからない。
「主、それ、どんな匂い?」
男士の一振りが聞くものの、主は首をかしげている。
「おかしな匂い…でもないか…しかし…妙だな…」
その匂いが特定出来ず、主は考える様子を止めず、ぼくたちは主の前をそっとさがった。
「あぁなると主は周りが目に入らなくなるから、そういう時は下がって良いんだ」
男士の一振りに言われ、考え事を始めた主は他のことが目に入らなくなるので、一度全員下がって良い、と教えられる。
あの地下室にあった媚薬に関する本もそうだが、この本丸の主は匂いに敏感なのかもしれない、そうぼくは思った。
またあの地下室へ行きたいと思いながらも、掃除当番が回ってこず行く事もなくなっていたある日、主が浮かれた表情を見せてぼくたち男士の溜まっている広間へやって来た。
「悪い、今日、妹が来るから」
「ああ、雅さんですね、わかりました」
一振りが答えると「頼む」と言って主はすぐその場から去る。
「妹さん…?」
ぼくが首を少し傾げながら呟くと、それを聞いていた男士が教えてくれる。
「主の妹さんだよ。たまにこの本丸に遊びに来るんだ。主曰く『自分に何かあったときの次のこの本丸の主』らしいんだけどね」