第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「それは彼の望みってことだよね。でもきみはどう思っているの?」
鬚切に問われ、もじもじとする雅は、少しの沈黙の後、ようやく口を開いた。
「私は…その…」
言葉に詰まり、空いている片手で鬚切が肩に掛けている上衣を掴む。
「何を考えてるかわからない…けれど…」
「うん?」
鬚切が強張った表情の雅を覗き込む。
「鬚切さん…貴方を…」
口を一度閉ざして、数回息を吐いて整えると、雅はまた口を開いた。
「…綺麗なグラスをくださった…貴方が…好き…かもしれません…」
途端、鬚切は雅の背中へ手を回し、自分の胸へ抱き締める。
「…鬚切…さ、ん…」
「…しぃっ」
鬚切はいたずらっぽく人差し指を雅の唇の前に立てると、彼女の肩へ顔を埋める。
「…はぁっ…いちおう、ぼくだって緊張するんだよ…?」
大きくやれやれ、と言わんばかりの口調でつぶやく鬚切に、雅は驚きながらもくすりと微笑む。
「…鬚切さんでもそんな風に思うんですね…」
笑みを浮かべる雅に余裕のある口調を見出し、鬚切も笑みを浮かべて顔をあげた。