第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「あぁ、何度かそう主に言っていたのを聞いたな」
その時の加州の本気の目を思い出した鬚切は立ち上がる。
「兄者、どうした?」
鬚切は優雅に身をひるがえし、障子をあけて部屋を出る。
「ありがとう、今から主のところへ行って話してくるよ」
「あ、兄者、待ってくれ、そんな性急に…!」
慌てて膝丸が止めようとするものの、動作を止めた鬚切はきょとんと膝丸を見おろす。
「行ってはいけないかい?夜這いして、と言ったのは抜け丸、きみだよ?」
「え、いや、それは言ったが…あまりにも…その…性急、では…」
しどろもどろに膝丸は言い訳をするが、鬚切はその美しい顔に微笑みを浮かべる。
「加州清光に先んじられては嫌だからね。ぼくは主に会ってくるよ」
ひらひらと片手を膝丸に振ると、障子をすぱんと閉めると静かに廊下を歩きながら審神者の許へと鬚切は歩を進めた。
「主、良いかい?」
先程動揺させられた鬚切が戻ってきて、審神者は心臓が大きく跳ねるのに気付いた。
「どっ…どうぞ…」
了解の返事をするとすらりと障子を開けて、淡い黄色の髪を揺らした鬚切が審神者を見ながら入ると、すぐに審神者の目の前に座って口を開いた。
「何度も悪いね。でもぼくの話しをやっぱり聞いて欲しくてね」