第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「さっきの顔、誰にも見せたくない…だから他の男士の前で嬉しそうに笑わないで欲しい」
「…えっ…でも…それは…」
いきなり切な気な表情を見せる鬚切に無茶振りをされ、審神者は動揺する。
「頼みを聞いてくれないかい?」
「いや…だって…ええと…」
鬚切の頼みに困惑する審神者に、鬚切はようやく自分が無茶を言っているのではないかと気付く。
「…もしかして…主に無茶を言っているかい?」
「ええと…あの…」
はっきりとそうとも言えず、審神者はまゆねを寄せて困った表情を見せた。
「…そうか…やはり困らせてしまったようだね…悪かったね」
すっと音もなく立ち上がると鬚切は、そのまま審神者の部屋を出ていってしまい、残された審神者は戸惑ったまま卓上に置いた切子細工のグラスを見て、障子の向こうに消えた鬚切の態度を思い返すのだった。
「一体…鬚切さんは…私に何を求めているの…?」
そして審神者は思い出す。
「さっきの…あきらかに…鬚切さんにキス…された、よね…あれはいったい…」
自分の唇に指をあて、鬚切の様子からひとつの答えを導く。
「…まさかと思うけど…あの、何を考えているかわからない鬚切さんが…私を好き…?」
考え過ぎか、と、審神者は首を左右に振って苦笑するのだった。