第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
審神者の手には、鬚切が先程万屋で見掛けた淡いピンクの切子細工のグラス。
「これ、切子細工でしょう?こういうのすごく高いんでしょう?」
「給料をもらっても使いどころはほとんど無いからねぇ。これは主が手に持っているところが想像出来たんだ。やっぱりしっくりきてる」
「本当?ありがとうございます。これから冷たいお茶はこれでいただきますね」
グラスを手にして嬉しそうに笑う審神者の表情が、鬚切には何故かまぶしく見えた。
「…主…」
瞬間、何が起きたのか。
鬚切がさっと審神者に近寄り、瞬きをするかしないかの速度だった。
審神者の唇に、鬚切の薄い唇が、一瞬、触れる。
「…ふぇ…っ…」
一瞬の事で何が起きたか混乱する審神者に、鬚切は眼差しを厳しくする。
「主、さっきの笑顔、他の男士にも見せてるの?」
「…は…?え…?な、なに…が…?」
何を問われているのかわからない審神者に、鬚切はまゆをひそめて目を細める。
「今、さっき、それを持った時の主の笑顔が、誰にも見せたくないくらい可愛かったんだ」
鬚切どころか男士からそんな事を言われた事の無い審神者は、瞬時に赤くなる。
「そんな事…一度も言われた事ないから…どういう事か…わかりません…」
審神者の答えに鬚切は息を「はぁ…」と吐くと、人差し指で審神者の唇をなぞった。