第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「兄者、それ、主へのお土産かい?」
「あぁ、主に使ってもらおうと思ってね」
膝丸がおずおずと聞くと、にっこりと鬚切は答える。
「…兄者はどうして主にお土産を買おうと思ったんだ?」
本丸の審神者に対し、顕現してからそれほど執着をしていたようにも見えない鬚切が、突然「主」「主」となり、そうなった理由を膝丸は知りたい。
「うーん…どうしてだろう…ねぇ?」
しかし、鬚切からは、ごくおっとりした答えにもならない答えしか返ってこない。
「何かおかしいかなぁ?理由も無いのにお土産を買ったりしたら?」
「…いや、主は気持ちが嬉しいと言って、喜ぶと思うが」
問われた事に曖昧に答える膝丸に、鬚切は「それなら良かった」と嬉しそうな様子を見せ、膝丸は自分の兄ながらどうしたいのか理由がわからなかった。
本丸に戻り、膝丸は歌仙へ頼まれたものを渡しに行き、鬚切は土産を審神者へ持って行くと入口で別な方向へ足を向ける。
「あ、膝丸様、おかりなさいませ、万屋に行かれたのですか?」
丁寧に聞いてくるのは、もともと女人の守り刀だったという平野。
「あぁ、あ、そうだ、お土産だよ、粟田口の子たちでどうぞ」
別に包んでもらっていた小さな袋を平野に渡すと、いつも真面目な表情が緩み笑顔を見せる。
「ありがとうございます」と嬉しそうに袋を受け取った平野は、そのまま粟田口へ届けに行ってしまった。