第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「兄者、どこへ行ってたんだ?」
膝丸が廊下を悠々と歩く鬚切を見掛け呼び止める。
「あぁ、ひでまる、主に菓子を持って行ってたんだよ」
相変わらずのんびりと答える鬚切に、また名前を間違えられてると思う膝丸だが、内心とは違って用件をてきぱきと言う。
「兄者、今日は俺と万屋へ買い出しに行く当番だ」
「おや、そうかい。わかったすぐ支度しよう」
鬚切と膝丸は自室へ戻り支度をすると、歌仙から買い出しのメモをもらって本丸を出た。
「今日は俺たちだけだが、たまに短刀を連れて行く事もあるんだ」
膝丸が行く道中鬚切に教えると、鬚切は何故というように首を傾げる。
「短刀たちは菓子を欲しがるのもいるからな、連れて行ってちょっと買って他には土産に持たせてやると喜ぶんだ。粟田口がとにかく多いから、あそこへは多めに買ってやって、後は来派のところだ。来派には大太刀だが蛍丸の風貌は幼いし、そちらにも持って行くと喜ばれる」
「へぇ、そうなんだ」と鬚切の返事はいつも通りだが、そのまま質問をしてきた。
「主には土産は買わないのかい?」
鬚切は尋ね、膝丸は「主への土産は考えた事がない」と答えると、鬚切は「ふぅん」とどう思ったのか一人納得したように頷いた。
「では誰も主へは何も買わないのかい?」
またも鬚切が尋ねるので、膝丸は首を左右に振ってまた答えた。
「あぁ、いちいち報告しないから、誰か買っているかもしれないが…把握はしていない」