第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「主、いいかい?」
廊下から声が掛かり、審神者は「どうぞ」と返事をする。
障子が開き、てっきり近侍の山姥切が茶菓子を持って来てくれたのかと思っていた審神者は、白い布を被った男士ではなく、にこにこと盆を持つ鬚切の姿に少し驚いた。
「あれ?鬚切さん、何故…?」
「あぁ。山姥切が持ってこようとしていたのだが、直前に他の男士に呼び止められ、だから代わりに近くにいた俺が持ってきたぞ」
「そうなんですか、ありがとうございます。では一緒におやつをいかがですか?」
鬚切の言葉に礼を言って審神者部屋に鬚切を通すと、鬚切の持ってきた盆を受け取り部屋に置いている茶器を用意して審神者は茶を淹れた。
茶碗を鬚切に出し、盆に乗っていた菓子の皿をひとつ鬚切に渡して、審神者自身も手元に置くと言う。
「美味しそうね、いただきます」
「いただきます」
鬚切も丁寧に頭を下げると、菓子の皿を手にして黒文字を使う。
その優美な姿に近くで見る審神者が自分の手が止まった事に気付かず、鬚切に声を掛けられた。
「主、どうしたんだい?手が止まってるよ」
「…っ…あっ…あの…鬚切さんは食べる時の仕草が綺麗なのですね」
慌てて手が止まっていた理由を述べた審神者は、何故か顔を赤くして自分の皿に目を落とし、その様子を見ていた鬚切は少し首を傾げて何故審神者が顔を赤くしたのか、と疑問に思うのだった。