第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
そんな様子を横から見ていたのは鬚切で、ふぅんと小さく呟きつつ、隣でわいわいと話し掛けて来る弟の膝丸に相槌をうっていた。
「兄者、わかるかい?」
「あぁ、とんでも丸、よくわかったよ」
どんどん違う名前になる膝丸に、周囲の男士は苦笑するしかなく、膝丸も苦り切った表情で鬚切に言う。
「兄者…弟の名前、ちゃんと覚えてくれ…」
「おや、弟の名前を間違えていたかい?」
あくまでのんびりとマイペースな鬚切に、我慢出来ずに周囲の男士が吹き出す。
「ははは…鬚切のほうが一枚上手だな」
「全くだ。じじぃになるとすっかり細かい事は忘れてしまうからな」
同じく1000年程時を経ている三条刀派の男士たちに言われ、膝丸はがっくりする。
「兄者ぁ…弟の名前、覚えておくれよぉ…」
「あいや、膝丸、そんなに落胆する事はないぞ」
慰めるのは三日月宗近。
「一緒に出陣した事がないから知らないと思うが、鬚切は出陣すると普段と全く様子が変わるからな。弟がどうこう…と叫びながら遡行軍を斬っているぞ」
「そう…か…?そういえば一緒に出陣した事、無かったな…主!」
膝丸は突然、審神者部屋へ戻ろうとしていた審神者に声を掛けて詰め寄った。
「何故俺と兄者は一緒に出陣する事が無いのだ?俺も兄者の戦うかっこいい姿が見たい」