第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
「あっ、前田くんっ、ちょっ、待って、違うっ…」
慌てて審神者が叫ぶものの、誤解した前田は廊下をぱたぱたと走り去ってしまう。
一体他の男士たちに何を言われるか、審神者は大きくため息をつくと目の前で眠る美しい顔の鬚切をもう一度揺すって起こす。
「ちょっと、鬚切さん、起きてっ」
何度が揺さぶるとようやく鬚切は目を開ける。
ぼんやりした表情で審神者を見つめ、そしてしばらくして言う。
「どうしたの…夜這いに来たのかい…?」
「はぁ?」と審神者はつい大声をあげてしまう。
「何を言ってるの、貴方が私の布団に何故か入ってきたのでしょう!」
「…えー…」
むくりと起き上がった鬚切は、確かに審神者の部屋である事を認識すると、首を傾げて何故こうなったか思い出そうとする。
「あー、そうだ、きみを起こしにきたら、きみの寝顔が愛らしくてつい布団に入ってしまったんだ」
にっこり笑顔で言われる審神者は、こののんびり屋の刀にそれ以上何も返せず、「とにかく着替えるので出てください」と鬚切を部屋から追い出すので精一杯だった。
「そうかい。じゃあ先に広間で朝餉をいただいているよ」
「はいはい、どうぞどうぞっ」
つっけんどんに返して審神者は鬚切を部屋から出してぴたりと障子を閉め、へなへなとその場に座り込み、すぐ目の前で見た鬚切の寝顔を思い出して膝に顔を埋めた。