第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
ぼくの頼みに長曽祢虎徹はぽかんとした表情を見せ、そしてそのまま自分の手のひらを見る。
それから大きくにっとぼくに笑い掛けたと思うと、その見ていた手のひらをぼくの頭に乗せてがしがしと撫でてきた。
この感じ、やっぱりあの相棒と呼んでくれたあのヒトに似ている。
そう思った途端、ぼくは撫でてくれる懐かしいあのヒトを思い出し、突然何とも言えない思いがこみあげて、ぼくは目から水をぼたぼたと落としていた。
「あ、おい、どうした?」
ぼくの様子に慌てた長曽祢虎徹の声に、近くの部屋の障子が開き、刀剣男士が顔を出して叫んだ。
「あー、長曽祢さん、泣かせてるー」
「えー、なんだって、どうした?」
すると同じ部屋から他の男士がわらわらと顔を出してきて、長曽祢虎徹は慌てて言う。
「違う、俺は何もしてない。ただ撫でてくれと言われて撫でただけだ」
「もしかしたら撫でかたが痛かったんじゃねぇの?」
部屋の中から茶化すような声がし、はっと気付いたような長曽祢虎徹がぼくに問う。
「もしかしたら強かったか?痛かったか?」
ぼくはぼたぼたと水を落としながら、首をぶんぶんと左右に振る。
「違う…違うん、です…ぼく、なつ、かしく、て…」
「懐かしい?」とぼくの言葉に長曽祢虎徹が被せるようにまた問うてきた。