第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
布をかぶった山姥切国広が、こちらをじっと見ながら言うものの、途中で長曽祢虎徹が遮る。
「刀派は特に無いようだが、最初に出来たのが新々刀に近い時代ならば…」
「ああ、もし良ければ俺が預かろう」
「長曽祢様、よろしいのですか?」と雅が問う。
「構わんよ、俺たちは前の主が幕末だから、大正とは時代が近いしな」
別に他意はなさそうだし、雅が「そうおっしゃるならお願いします」と頭を下げたので、ぼくも同じように頭を下げた。
「…お願いします」
すると下げた頭を長曽祢虎徹にがしがしと撫でられた。
「よしよし、楽しくやろうな」
「足りないものは山姥切様に言ってくださいな。すぐ用意します」
「あぁわかった。よし、不知火、行くぞ。部屋へ案内しよう」
長曽祢虎徹は鷹揚に言って立ち上がったので、ぼくも立って一緒に部屋を出た。
さっきの頭を撫でた時の手が、すぐ目の前に見える。
ぼくを…刀の鞘を必ず撫でてくれたあのヒトを思い出すような、暖かい大きな手。
「あの…」
ぼくが話し掛けると、長曽祢虎徹はぼくの顔を見るので思い切って言ってみた。
「お願いがあるのですが…もう一度さっきみたいに、頭を撫でてくれませんか?」