第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
どうしてそんなに物分かりが良いんだろう。
ぼくは納得出来なくて二振りをじっと見ていたら、陸奥守吉行がぼくの頭をがしがしと撫でながら言った。
「おまんさんはとっても良い主に大切にしてもらったんやきなぁ。それだけおまんさんが執着する気持ちはわかるぜよ。でもなぁ、わしの坂本龍馬さぁも長曽祢の近藤勇さぁも、歴史に積み重なった部分で死んでるぜよ。わしらだって、坂本さぁも近藤さぁも生きていて欲しかった。でも彼等はもう、生きていてはいけないんちゃ。歴史を変えてはならんぜよ。だから、おまんさんも顕現したからには、この本丸でこの主に仕えて、歴史が変わらないようやっていこうっちゃ」
ぼくはどうして、ぼくの気持ちをわかってくれないんだろう、と悔しくて唇を噛みしめる。
無言になったぼくを覗き込んだ長曽祢虎徹が、慌ててぼくのほおに手をやった。
「唇を噛んではだめだ。皮が破けて血が出るぞ」
はっと気付いて唇を噛むのを止め、それが早かったせいか血は出る事はなかった。
でも強く噛みしめたせいかひりひりと痛みだけ残る。
「大丈夫か?」
長曽祢虎徹が心配そうにぼくを見るので、ぼくは無言でこくりと頷く。
同じく前の主を殺されたのなら、きっと陸奥守吉行と長曽祢虎徹はぼくの気持ちをわかってくれると思っていたけれど、歴史は変えちゃいけないから仕方ない、とばかりにあっけらかんとしているのを見て、ぼくは何故そういうふうに考えられるようになったのかと戸惑う。
自分でも心の整理がつかずにいると雅が口を開けた。
「不知火様、陸奥守様と長曽祢様だけでなく、ここにはたくさんの貴方がたと同じ刀剣男士様がいらっしゃいます。そのかたたちと接して、ご自分を見つめられるのもよろしいかと思いますよ…山姥切様、不知火様のお部屋、どちらが良いでしょう?」