第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
「長曽祢様、そんなに怖い顔で見ないでくださいな」
雅が立ち上がりぼくの隣に座り直す。
「このかたは先程顕現された不知火空抄様。以前は日輪刀という鬼を斬る刀だったそうです」
そしてこの部屋に入ってきた二振りの刀をぼくに紹介してくれる。
「こちらの今、口を開いたかたが陸奥守吉行様。幕末の坂本龍馬の愛刀だったかたです。そしてもうひとかたは長曽祢虎徹様。新選組の近藤勇の愛刀だったかたです」
幕末は確か大正の前の前の江戸時代末期の事を言うんだっけ。
坂本龍馬とか近藤勇とか、忘れられていた刀だったぼくですら知っている名前だ。
坂本龍馬は密会合をしている時に襲われ殺されてしまい、近藤勇は詐称して投降したものの身元がわかられて処断されたんだっけ。
殺されたり処罰されたり、確かにぼくと立場は同じだ。
ぼくは思わず立ち上がり、この二振りに詰め寄った。
「あのっ…前の…元の持ち主が死んでしまったけれど、歴史を変えて生きられるなら、歴史を変えても良いと思いませんか…っ」
坂本龍馬と近藤勇なら有名なヒトだし、きっと生きていて欲しいと思うだろうと思ったものの、けれど二振りとも頭を左右に振ったのだった。
「ど…どうして…」
ぼくが驚いて聞くと、今度は長曽祢虎徹が話し出した。
「おまえの言う事はわかる。だが歴史を変える事は許されない。その後に多大な影響が出るからだ。坂本龍馬や近藤勇の死は、歴史を作る上での死なのだから、それは俺たちにとって何も言える事はない、俺たちは事実を受け入れるだけの存在だ」