第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
「ぼくだけで無い?過去を変えたいと思う刀は?」
ぼくがまくしたてて問うと雅は戸惑いつつ答える。
「不知火様のようにはっきり歴史を変えたいと言っている刀剣男士はおりません。けれど、当時の主を不幸な形で亡くした刀は多くいるのですよ…」
「不幸な形って…」
「不知火様の主と同じように、殺された持ち主は多いのです」
ぼくを落ち着かせるようにぼくの両腕を擦すりながら雅は言う。
「そんな刀がいるなら…ぼく、その刀に会いたいんだけど」
ぼくがお願いすると雅は頷き、そして山姥切国広を見た。
「山姥切様、お手数ですけれど、こちらに陸奥守吉行様と長曾根虎徹様をお連れしていただけまですか?」
山姥切国広という男士は、頼まれて頷くと部屋を出て行った。
雅はぼくから離れると、ぼくに座るように言って、ぼくはその場に腰をおろした。
しばらくして雅が連れて来るよう頼んだ男士たちが来たらしく、複数の廊下がきしむ音が聞こえてくる。
「入るぞ」
先程の山姥切国広という男士の声がし、部屋の戸が開けられたと思うと、続いて二振りの刀剣男士が入ってきた。
「ほい、なんじゃあ、わしに何か用か?」
陽気な声で方言丸出しで声をあげた一振りに対し、もう一振りは無言でぼくをじっと眺めたけれど、その視線にとても威圧感を感じてしまった。