第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
「こいつは…顕現出来たのか?」
ぼくを見ながら低音でぴりりとした空気を醸し出すおとこのヒトに対し、雅はそのヒトににこりとして言う。
「そんな怖い顔しちゃ駄目ですよ。彼が先程の刀で、顕現された不知火空抄様です」
ぼくは全く理解出来ず無言でいたら、ようやくぼくの状況に気付いたのか、雅が説明してくれる。
「もしかしたら顕現された事すらわかってないですか?この本丸にいるかたがたは、私を除いてみんな、貴方と同じ刀剣なのですよ。このかた…」
そう言っておとこのヒトを見る。
「こちらのかたも刀です、山姥切国広様と言います。刀剣が刀からヒトの姿になる事を顕現と言い、何故ヒトの姿になるのかというと時間遡行軍という過去の歴史を改ざんしようとする者がおり、彼等と戦って歴史を守って欲しいのです」
ぼくは顕現という状況で刀からヒトの姿になり、歴史を改ざんしようとする者と戦うのか…
ここではっと気付く。
歴史が改ざんされるなら、あの時代鬼が出る事がなかったかもしれない。
ぼくが刀として生み出される事はないかもしれないけれど、相棒と呼んでくれた彼が死なずに済んだかもしれない。
後で思うに、ぼくはこの時どんな様子だったのだろう。
でもそんな事わからない、なりふり構わず雅に問う。
「歴史が改ざんされたら、あの彼は死なない生活が送れるの…?」
当然だけどぼくの言葉が理解出来ない雅と山姥切国広が、ぽかんとした表情でこちらを見るのでぼくは急いで説明した。