第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
ぼくは信じられなかった。
目線を落として両手を見、両手でぐーぱーとし、その両手で顔を撫で回した。
「あ…」
のどの奥から絞り出すように声を出すと、高めの声が発せられる。
そうなんだ、ぼくがヒトになったんだ。
白装束のおんなのヒトにどこかへ連れて来られ、祭壇のようなところへぼくは鞘を抜いて置かれた。
布を被ったおとこのヒトは少し離れたところに座り、おんなのヒトが両手をぼくにかざし出すと、ぼくの全身が光り出し何かに包まれたように暖かくなったのを感じ出した。
「…5時間…」
おとこのヒトが小さく言ったと思うと立ち上がり、一緒に居た部屋から出て行ってしまった。
それでもおんなのヒトはずっとぼくに手をかざしたままだった。
それがどれだけ続いたのだろう。
ぼくはやがて、全身が熱くなりそのまま内側から光ると破裂するような感覚を覚えて、気が付くと刀からヒトへと姿を変えていた。
あのおんなのヒトがぼくを見て深々と頭を下げて言った。
「ようこそ、不知火空抄様、当本丸へ。私がここの主の雅と申します」
ぼくの名前はあの時の政府から聞いたから知っているのだろうけれど、ぼくがヒトの姿になっても驚かないってどういう事なのだろう。
何も言えずただ雅と名乗ったおんなのヒトを見つめていると、外から先程の白い布を被ったおとこのヒトが入ってきて、片まゆをあげてぼくを見た。