第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
「顕現にずいぶん霊力を使いそうですね…でもこうして政府のかたが持っていらしたのですし、私でやってみましょう」
ケンゲン?レイリョク?何の事だろう。
刀のぼくは全く理解出来ず、とにかくぼくをこのホンマルとやらへ持ってきたヒトたちは帰ってしまい、ぼくだけ残されてしまった。
そしてぼくを手にしたおんなのヒトは、ぼくをそっと持つとぼくを鞘の上から撫でる。
「長い間、ずっと迎えを待っていたのですね。私のちからで出来るかわかりませんが、貴方をここへ迎えられるよう努力しましょう」
優しく撫でられ、ぼくは相棒と呼んでくれたあの彼を思い出す。
もう、遠い遠い過去の事のように思える彼との闘いの日から、今はこうして脇差として生まれ変わり、そしてぼくにこれから何やら起きようとしているのだけははっきりとわかった。
そしておんなのヒトが白装束でぼくの前にやってきた。
どうもぼくをどうかするために身を清めてきたらしい。
ぼくを両手に捧げ持つと、ぼくをどこかへ運んでいくのだけど、もうひとりおとこのヒトが一緒に歩いていた。
「主、この刀が例の、ですか?」
歩きながらそのヒトが問うと、主、と呼ばれたおんなのヒトが答えた。
「ええ。政府が直々に頼んできたのです。私で顕現出来るよう努力いたしましょう。申し訳ありませんけれど、近侍としてお手伝いくださいね」
「ああ、勿論だ」
おとこのヒトは特に白装束ではなかったけれど、何故か白い布を頭から被っているので、お面の刀工のヒトと言い、頭に何か被るのが流行っているのか、と思ってしまった。