第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
真面目にきちんと任務をこなしてゆく柱の彼は、炎の呼吸を扱う。
鬼がその呼吸に呑まれ、気が付くと首をぼくによって落とされ、たぶん自覚のないまま消えていっているだろうと思う。
柱の彼は任務を終えて自分の屋敷に帰ると、女性がいつも出迎える。
不知火さんには居なかったけれど、この人が彼の奥さんって人なのかと思ったけれど、どうもそういう立場の人ではないらしい。
それでも二人は愛し合っているようで、ぼくを丁寧に刀置きに置いた後、同じ部屋で二人の睦み合う姿を見るのもしばしばだ。
愛し合うヒトってああいう事をするんだ、と初めて見た時は驚いて何が起きているのかわからなくて戸惑ったけれど、そのうち何となく気が付いて今は慣れたものだよ。
聞いた事のない、いつも彼を笑顔で出迎えている女性が、全く違う声で甘く喘ぎ、彼もしっかりと女性の足を持ち上げ、全身を揺すぶって荒く息を吐いている。
鬼狩りとは違う息遣い、鬼狩りとは違う動き、そして鬼狩りとは違う、二人の睦み合う最後の全身を震わせて歓喜と言ってよい嬌声をあげる姿。
乱れる、と言った言葉がぴったりだと思う。
そんな二人もそれが終わると、またいつもの姿に戻り家の事と鬼狩りを続ける。
鬼狩りは危険な仕事だ。
ぼくの目の前や柱の彼の目の前で、鬼狩りが鬼に喰われ死んでいく姿を何度も見た。
手足を生きたまま引き裂かれ、ヒトが断末魔をあげて殺されていく姿に、反吐が出そうになった事も何度も有るし、実際彼も死んだヒトを埋葬した後、思い出したらしく嘔吐している姿を何度も見た。
それでも彼は危険と闘い、相棒のぼくも彼の為に、そしてヒトを守るためにぼくを振るう彼を助けるために、鬼を斬っていく、そんな生き方はいつまでも続くと思っていた。