第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
ずっと作られてから放っておかれたせいか、こうして相棒と呼んでもらって本来の刀の使いかたをしてもらえるのが嬉しくてしようがなかった。
ぼくが斬るのはヒトではなく鬼。
日輪刀だけが鬼を殺す事が出来るから、日輪刀になったぼくは鬼を殺すために働く。
だからこの頃は本来の名前は捨ててしまっていたと言ってもいいかもいれない。
誰かの為に活躍出来るのが嬉しくてならなかったんだ。
ずっと放置されていて、出来損ない扱いされていた頃に比べると、日輪刀の特別な鉱石で作られて良かった、と思って働いたんだ。
数年経て、ぼくを扱うその少年はすっかりおとなになり、何より素質が有ったようで柱と呼ばれる最高位の称号を得るまでになっていた。
「うむ、今日もよく鬼を斬ったな!」
いつも通り鬼を倒した後、彼は「ははは」と大声で笑いながらぼくの柄をよくがんばったな、と言わんばかりに数回撫でてくれる。
ぼくはそれが気に入っていて、いつも彼から仕事の終わった後に撫でてもらうのを楽しみにしていた。
何故それが気に入っていたかって?柱である彼は鬼を倒す時、いつもでは無いけれど特別な呼吸法を使う事が有り、その時のちからは普段の何倍かに増すんだ。
その呼吸法を使う時、彼がぼくへの持ち方を瞬時に少し変え呼吸を整える、凄愴な空気が漂いぼくも全身が震えるような感覚を持つんだ。
刀なのに、震える感じっておかしいでしょう、でも、本当なんだ。
何て言うのか、ヒトの感覚では興奮する、そう、ぼく自身も高揚して、持ち主の彼と息を合わせて技を繰り出す、そんな状態を作り出す彼との仕事は本当に心地よかった。