第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
何故なら彼がぼくを手にし、鞘から抜いた時、ぼくの刀身が熱く燃えるような、刀としての使命感に陥った。
そう、鍛えらえている時は違う、刀身が燃えるようだった。
新しい持ち主の彼も驚いていたけれど、その彼がぼくを持った時、ぼくは黒から赤く刀身の色を変えたんだ。
「…変わった…!」
ぼくの変化に彼が驚き、お面をつけた件の刀工はまくしたてる。
「わかったか、この刀は持ち手を選ぶ。色が変わったという事は、おまえはこの刀に選ばれたという事だ」
「俺が…選ばれた…」
ぼくは選んだつもりはないのに、持ち手を選ぶ事になっている。
きっとぼくが彼等と話しが出来たら、「ぼくは持ち手を選ぶ事なんてしていない」と彼等にいろいろ突っ込んでそうだ。
そして持ち手の彼はどうして刀の色が変化したのか聞き、お面の刀工はわめきながらもその刀について教えてくれた。
特殊な鉱石を使ってつくられる、この刀の名は日輪刀。
その鉱石を使って作られるものは、全て日輪刀と言うらしい。
ぼくには不知火空抄という名があるんだけど、どうも特別な鉱石を使って作られたせいで日輪刀とひとくくりの名前に替えられてしまった。
でもそれまで真っ黒だった刀身が、新しい持ち手の彼によって赤く輝く刀身へ変わったから、それは良かったかも。
彼は鞘にぼくを収めながら、ぼくに「相棒、よろしく」と声を掛けてくれた。