第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
「…全く盗まれたあれが使われてしまうとは…」
うん、ぼくは普通使われない素材を使用されて作られた、実は特別な刀だったんだ。
勿論ぼく自身はそんな事全く知らなかったけどね。
どこか知らない、自然に囲まれた小さな里へ連れて来られたぼくは、何故かお面を被った人の手に渡された。
顔が見えないのでどういう人かわからないけれど、どうもかんしゃく持ちらしく、しょっちゅう文句を言っている刀工のようだった。
その人はぼくを鞘から抜いて初めて見た時、でも、言ったんだ。
「これは…刀工に会いてぇもんだな…」
不知火さんに会いたいって言っていたけれど、ぼくを作り上げてから病気にかかってしまい、でも不知火さんは真っ黒なぼくを売る事も出来ず、お金の工面に苦労してようやくぼくを売り払って、それからひっそりと亡くなった、と聞いたから、ぼくのことは嫌っていたかもしれない。
お面の刀工の人は、ぼくをほんの少し打ち直して、ぼくは新しい鍔を付けてもらった。
なんか変わった形の鍔だな、とは思った。
そして数日して、ぼくの刀の持ち主になるという人がやってきた。
まだ少年と言っていいような姿。
だけど凛としたものを内に持っていて、気概がありそうだった。
そしてその新しい持ち主がぼくを鞘から抜いた時、ぼくは生まれ変わったと言って良い。
何が起きたのだろう。
ぼくは、自身の姿の変貌に、一番驚いたかもしれない。