第33章 すいーつ王子の甘い指導 〔小豆長光/R18〕
懐かしそうに少し上を向いて遠くを見やりながら、小豆は最初の持ち主を思い出す。
「すぐ刀を鞘から抜いて、直属の部下である忍びを追い掛け回していたぞ」
真面目な顔で恐ろしい事を言うので、主は驚く。
「刀を鞘から抜いて部下を追い掛ける…!?」
「あぁ。部下の忍びも逃げるのがうまくて、半日掛かりの追い駆けっこになっていたな」
「えぇ?竹刀とか偽物の刀じゃなくて、本物の刀をお城の中で振り回しての追い駆けっこって…ものすごく怖いんだけど」
呆れ顔の主に小豆は気付き、小さくウィンクをしてにこりと笑った。
「こう話すと確かに怖いが、彼等にはちゃんと助けてくれる仲間が居たから大丈夫だ」
「仲間?ええっと家臣とかじゃなくて?どういうこと?」
「武田信玄と彼の部下の真田幸村。領地を失って死んだ事になってしまった彼等を受け入れ同盟を結び、上杉の春日山城で匿っていたんだ。彼等が、上杉謙信と忍びが追い駆けっこを始めると、うまくさばいて忍びを助けてくれていたぞ。上杉謙信も武田信玄の言う事は、文句を言いながらも割と黙ってきいて、四人で宴会と称して良く呑んでいた」
なんたか名前だけでゴージャスすぎてついていけないよ、と言わんばかりの話しを、主は目をぱちくりしながら聞いていた。
「それにしても、小豆さんはじゃあ、上杉謙信だけじゃなくて風林火山の武田信玄と六文銭の真田幸村の二人も姿を見ているんだね。その人たちはどんな人だったの?」
主が歴史の有名人について質問すると、小豆はにこりとしながら説明する。
「きみが歴史好きとは知らなかったよ。武田信玄は体躯は大きく一見怖く見えるのだが、甘いものが大好きでしょっちゅう饅頭や団子を食べていて、真田幸村に怒られていたのだ。私が顕現していたら、きっと、毎日、あの武田信玄にスイーツを作っていただろうな」