第33章 すいーつ王子の甘い指導 〔小豆長光/R18〕
「前の審神者…」
正直似合わないと主は思うものの、結婚のため審神者の職を辞めた前の主が作ってくれ、小豆の愛用しているというエプロンを卑下するのは、前の審神者をも卑下する事にもつながると気付き、笑うのを止め当たり障りのない感想を言うだけとなった。
「そう…前の審神者様が、ねぇ…丁寧に作ってあって、その審神者様は手芸が得意だったみたいだね」
エプロンの端を手にし、縫い目を見る主に、小豆は誇らし気に答えた。
「あぁ、前の主は家事全般が得意で、だから大きな何とかという寺が主の事を知り、嫁にもらいたいと話しをもってきて、主もそれに了承したのだよ」
「…今もその審神者様はどこかの寺でお嫁さん業を続けているの?」
「…いや…もう50年近く前の話しだし、既に亡くなっている」
小豆が目線をくるりと動かして少し考えて答えたものは、主に小豆がヒトで無い事をありありと理解させるものだった。
「50年前…すると…小豆さんは50年もの間、顕現されずに刀として眠っていたの?」
「そうなる」
うむ、と頷く小豆は50年もの間、どんな思いで眠っていたのだろうか、と主は思う。
それを問うと小豆は首を少し傾けて考える様子を見せた。
「今迄の主たちを想っていた、と思う。刀として眠っている間の記憶は、新しく顕現されると全てではないが消えてしまうのだ」
「一番最初の主は…ええと、戦国時代の上杉謙信だっけ?」
「梅干しを肴に酒ばかり呑んでいるものの、戦になるととても機転がきくし腕にも覚えのある、とにかく強かった武人だ」