第32章 夜を独り占め 〔膝丸/R18〕
「!!」
すぐ唇は離したものの、主は俺からの口付けに驚いて、両手で唇を覆ってしまう。
「い…いま…なに、して…」
「何って口付けだが?してはいけなかったか?」
俺は顔を主に近付けたまま言うと、主は後ろに下がりながら答える。
「そ…そうしょっちゅうするものではない…でしょ…」
「俺が主としたかった、それでは駄目なのか?」
後ろにずるずると下がる主を、俺がずいずい前へ進み追い掛ける形となり、主の背中に壁がぶつかると主は左右どちらかへ動こうとするが、俺が両手を主の顔の両側に押し付け、逃げられないように囲ってしまった。
「主、俺が嫌いか?」
俺の問いに顔をあげて俺を見る主は、顔を赤くし動揺を隠せずにいる表情だった。
「もう一度、問う。主は俺が嫌いか?」
「…いや…嫌いじゃ、ない、よ…」
ようやく聞けた答えは、でも嫌いじゃないけれど好きでもない、といった何とも曖昧な答えだった。
「では、主は好きな男士がいるのか?そいつは誰だ?加州清光か?山姥切国広か?」
審神者が審神者になった時、最初に選べる五振りの刀を初期刀と言い、今、俺が聞いた二振りに陸奥守吉行と蜂須賀虎徹と歌仙兼定の三振りを合わせたものがそれに該当する。
確かこの本丸の初期刀は陸奥守吉行だったと思うが、この主は彼からは特別な感情を受けていないのは、陸奥守吉行の態度で明らかだった。