第30章 He is a NOT boy. 〔大和守安定/R18〕
「賭けに負けて近侍をするの?それならやらなくても良いよ?今日の仕事なら一人で出来るくらいの内容だもの」
「いえ、ぼくも近侍をやりたいです。お願いします」
理由を聞いて更に驚いて近侍をやらなくて良い、とまで言われ大和守は頭を下げて、『賭けに負けて近侍をやる』は駄目だったか、と内心失敗したと焦る。
この本丸の審神者はまだ若いけれどあまり洒落っ気のないもっさり感の漂う女性で、眼鏡を掛けて髪の毛を一本にひっつめて、服装も男士の内番姿に合わせたように、常にジャージ姿でいるような主だった。
だからいつも加州が何とかして可愛くしようと努力をするのだが、本人が「いいよ、このままで。いちいちおしゃれしなきゃいけないようなところでもないでしょ」と突っぱね、その事もあって加州が近侍になりたがるのだった。
大和守は一度だけ眼鏡を外した素顔の彼女の顔を見た事がある。
たまたまお菓子とお茶を運んで行った時、襖が少しだけ開いていて声を掛けようとした時、眼鏡を外してレンズを拭く姿を見たのだが、眼鏡を外したその顔は大きな瞳が気だるげな雰囲気を持ち色っぽく見え、これを他の男士が見たらすぐに喰いつかれそうな美貌に、ドキリとしたのだった。
主が外の気配に気付きすぐ眼鏡を掛け「誰?」と声を掛け、大和守は部屋へ入っていったのだったが、眼鏡の奥のあの色っぽい瞳はもう見えずじまいだった。
それ以来、大和守は主が気になってしかたがない。
これがどういう感情なのか、本人も全くわかっていないものの、理由はともかく見事に感づいた加州が何とかちからになろうとしているのだった。
「そう?じゃあ悪いけれど…こちら頼んで良いかしら?」
端末への入力する数字の書かれた紙束を渡され、「はい」と主の目の前に座り端末へ入力を始め、二人の無言の時間がしばらく続いた。