第4章 片恋をいつか 〔薬研藤四郎〕
ぽんぽんと俺の頭を軽く撫でる大将に、俺は自分が短刀である事に少々がっかりした。
それまではこの姿に文句は全くなかった。
小さいから機動力があって小回りがきいて、何より太刀では動けない夜戦向き。
短刀である俺たちの誇りはそれなんだ。
でも、大将への気持ちに気付いた今、この姿ではいつまでたってもこども扱いをされるだけだと知る。
俺もいち兄みたいな大きい刀になりたかったな。
そうしたら大将は俺を見てくれたかな。
いや、きっと大将は俺が大きくても俺ではなく、いち兄を見つめているだろう。
だったら?簡単だ。
俺は今の姿でも大将が惚れてくれるような活躍をしてみせよう。
そしていち兄から大将を奪って、俺の望む大将との関係とやらを結ぶんだ。
他の短刀たちと楽しそうに語る大将の横顔を見つめ、俺は決意する。
大将、覚悟しとけよ。
俺が本気になったら、誰よりも活躍して、大将のその顔を俺にむけさせてみせるから。
俺はふっ、と一人で笑うと、弟たちの中へ入り、一緒に菓子の袋を開ける。
ぱりん、とせんべいを半分に割って、その割った半分を大将の口元へ押し込む。
「ほら、大将、口開けろ」
恥ずかしがる大将の口に割ったせんべいを押し込んで食べさせる。
そのせんべい、大将の口に運ぶ前に、俺が軽く口付けしておいた。
つまりは俺に惚れる、媚薬付きせんべいさ。
<終>