第26章 小さな愛を育つ 〔山姥切国広〕
まだ執務室が明るかったからだが、主のとげついた声が中から聞こえる。
「その声は山姥切さん?何の用?」
俺はどうしてそういう声を出すのか、そう思いつつ、いつもと同様に対応する。
「話しがあるのだが、入っても良いか?」
瞬間、戸惑ったような雰囲気を感じたが、無言のままだったので、思い切って襖を開けて中へ入った。
「あっ、許可してないけど…」
中へ入った俺は主の姿に息を呑んだ。
目の前にいるにんげんは一体誰だ?
そう思う程、しばらく見なかった主は、一気に成長して美しいおんなとして見えた。
「用が無いなら早く出て」
主は顔を背けて俺に言う。
何もしていない俺にまでつっけんどんな態度をとる理由がはっきりわからない。
俺はその場に座って言った。
「理由があるから来た。最近部屋からほとんど出てこないのはどうしてだ?食事も運ばせて俺たちと食べないのは何故だ?短刀たちは自分たちが嫌われたのか、としょげているぞ」
背けた主の顔の口がへの字に曲がっているのに気付くが、何が理由で部屋にこもっているのかはっきりしないと、本丸の雰囲気も悪くなるだけだ。
「主であるあんたがそんな態度だと、刀剣たちの士気にも関わる。何があって俺たちの前に出ないなら、理由を聞きたい。教えてくれ」