第26章 小さな愛を育つ 〔山姥切国広〕
少女の殻を抜け出した頃の主は、言い方は悪いけれど、さかりのついた雄猫を嫌う、雌猫そのものだった。
「最近、主さん、機嫌悪いよねぇ」
ある日、お菓子を食べながら乱が言うと、他の短刀たちも頷いた。
「言われてみれば、話しかけても『うん、わかった』『そうして』って呆気ない態度だしね」
「ぼくたちが嫌いになったのかなぁ」
五虎退が泣きそうな顔をして言い、一期一振が慌てて慰める。
「そんな事は無いですよ、主もお忙しくてみんなに構えないだけでしょう」
「それなら良いんだけど…部屋からもあまり出てこないよねぇ」
確かに審神者としての仕事をする部屋と自室の往復だけで、ほとんど他の部屋には行かず、食事も運んでもらって部屋で食べているため、会わない刀剣とは全く会わない状況となっていた。
「主さまの笑顔、見たいですね」
前田と平野も顔を見合わせて小さくため息をついていた。
これでは刀剣たちの士気が下がり、遠征や演練でも成果をあげられなくなってしまう。
初期刀の俺としては、何とかしなくては、と直談判をする事にした。
「主、今、いいか?」
思い立ったら吉日、という事で、俺はその日の夜に執務室へ声を掛ける。