第15章 出陣の理由 〔山姥切国広/R18〕
「だから俺は知らないって」
首を傾げて理由を知りたがる主に、何も知らない俺は『知らない』を繰り返した。
「そうでしたね、失礼しました」
これ以上は不毛と気付いたのか、主はここで会話を止める。
しばらく紙をめくる音とパソコンのキィを叩く音だけが、二人の間に聞こえる。
とん、とキィを叩いた主が「ふぅ」と息を吐いた。
「こっちは入力出来ました。そちらはいかがですか?」
「ああ、もう少しで終わる」
今日の近侍である俺と、手分けして入力を溜めてしまっていたものを片付けて、終わったところで主がお茶を淹れてくれる。
そして主は立ち上がると部屋の隅の棚を開けて、カステラの載った菓子皿を取り出した。
「先にいただいておいたんです」
少し恥ずかしそうな表情をして、カステラと菓子切りを俺に渡して、それから自分の目の前にも置く。
「カステラはお嫌いですか?」
俺に気にしつつ聞いてきたのはわかるので、俺は首を左右に振る。
「今日は、面倒な仕事を手伝ってくださってありがとうございました」
俺がカステラは嫌いじゃない、と言った事で笑顔を見せた主は、俺に礼を述べる。
「気にするな、俺はたまたま今日近侍の当番だったから手伝ったまでだ」