第13章 魔女と賭け
俺もまだまだだ。
愛しい相手に想いは届く事なく
それどころか
別の女に向けろと言われる始末
正直なところ
明美の事は大事に思っている
愛情がないわけではない。
しかし
綾波への想いや愛しさとは違うものだ。
「肝に銘じておく」
とは言ったものの
俺が今、一番失う事を恐れているのは
綾波だ。
『…どうした?』
視線を合わせたまま動かない俺が気になったのか
不思議そうに顔を覗きながら彼女が声をかける
これから
どんな言葉を並べても
組織を裏切る立場である俺の言う事に
彼女は半信半疑であろう
白でも黒でもない
灰色、グレーゾーンというわけだ
それならばいっそ
本音を曝け出しても良いのではないか?
例の作戦が成功しようが失敗しようが
もう二度と伝えることが出来ないかもしれないのだから
綾波の手を取り
今度は俺がその甲に口付けを落とした。
「俺は綾波を愛している。だから、お前だけは失いたくない」
静寂に包まれた室内
じっと見つめ合ったまま離れることない瞳
『ふっ、そうか、それならば今はその言葉に甘えておくとするか』
やはり、曖昧な返事だ
しかし
小さく微笑んだその表情はどこか柔らかく
人間らしいものだった。
そして
迎えた運命の日
張り詰めた時間が過ぎた
だが
誰一人として組織のメンバーは集まらなかった。
つまり
作戦は失敗に終わったのだ。
〝余計な事はするな〟
仲間を責める事はできない
彼女の忠告を周知することができなかった
俺の責任だ
俺は組織を裏切者として脱退した。
組織の中でも
親密だった綾波や明美は無事だろうか
今やもう、その安否さえも伺えない