第13章 魔女と賭け
今日は新月
暗闇が支配する道を車で走る
彼女に指定された場所に着くと
変わらないアイリッシュの姿があった。
『久しぶりだな、ライ』
「そうだな、アイリッシュ」
内側からドアを開けて招くと
何一つ疑う素ぶりを見せず助手席へと座る
信用…されているのか?
少なからず嬉しく感じた。
『女性を乗せるには少々男臭い車だな』
「まさか乗せる機会があるなんて考えてもいなかったから仕方ない」
『構わん、ただ黒はよせ。お前は赤だ』
意地悪そうな笑みを浮かべアイリッシュは俺の色を赤だと言った。
確かに赤は嫌いではない。
黒は組織の色という先入観があるせいか
何かある度に黒を選んでいたが、彼女が言うならば…
「考えておこう」
『あぁ、私の意見は参考になるぞ』
流石の自信家だ。
出会った時と変わらない
ただ、以前より少し表情に優しさがみえた。
空白の時間に何かあったなと確信する
それが何なのか…問いたい気持ちを抑え車を走らせた。
『本当にやるのか?』
膝をつき外を眺めながらアイリッシュが口を開く
「そうだな。日時は既に決まっている。あとはその時を待つだけさ」
『私は何もできないぞ?』
彼女なりの優しさであろう
遠回しにどんな事があろうとも
自分が手を出す事ができない
つまり
俺自身が死ぬ事があろうとも助ける事ができないと伝えてくれる。
「分かっているさ」
『では、もし、その場に私がいたら迷わず撃てよ』
相変わらず、外を眺めながら話すアイリッシュ
反射するガラス越しにどこか淋しげな瞳が写っていた。
「撃っても死なないと分かっている人間をわざわざ撃つようなことはしないな」
『もしかしたら、死ぬかもしれんぞ?』
死ぬかもしれない
その言葉に一度大きく脈打つ心臓
同時に改めて実感する
忘れていた感情
ここは素直に言っておいた方が良いだろう。
「…それは…困る」
困るだけではないかもしれない。
失う前から気づいてしまっている
彼女の存在の大きさに
『冗談だ。冗談』
それまで長いこと外に向けられていた視線が
こちらへ向かられたようだ。
見えないが…感じる。
信号に捕まり、しっかりと顔を合わせると
彼女は笑っていた。