第12章 魔女と夜空
『またな、零』
ゼロだった距離が遠く離れていく
「はい、お気をつけて…」
感情を悟られないように
心を読まれないように
精一杯の冷静を装った。
閉められるドア
離れていく足音
彼女の姿が完全に見えなくなるとハンドルに両手をかけ
大きく息を吐きながらうな垂れる。
恋人とも言えるほどのこの国を守る事
これが公安の人間である僕の使命。
そのために
組織に潜入し、時には殺人を犯しながら日々組織壊滅への手段を模索しているのだ。
しかし
その組織には
アイリッシュ…いや、咲哉がいる
彼女は公安による保護を望んではいない。
自然の摂理に反し、老いる事なく死ぬ事なく生き続ける彼女にって
この世界は地獄だろう…
「咲哉…僕はどうしら貴女を救う事が出来るんですか…?」
彼女の温もりがまだ残る助手席へと目を落とす
無力な自分への苛立ち
そして
気がかりなのは
電話の相手
組織の人間であるのは間違いない
ジンか…
ウォッカか…
ベルモットか…
まさか
ライ?
「くそっ!相手は誰なんだ!!」
ハンドルを握る手に力が入る
彼女が言った『私を忘れるな』という言葉には一体どんな意味が隠されているのか
本人たちにしか分からない
特別な意味があるのだろうか
1人残された車内
ふと、視線を上げると
皮肉にも先程まで咲哉と共に眺めた星空が広がっている。
咲哉の言った通りだ。
1人で見るより星空よりも
咲哉と見る星空の方が
咲哉と見る月の方が
遥かに美しい。