第12章 魔女と夜空
2人きりの天体観測を終え、帰路に着く
彼女はずっと窓の向こうを眺めていた。
「少し疲れましたか?」
『いや、今夜は楽しかった。ありがとう』
「いつでも星が見たくなったら言ってください」
『わかった。それでは遠慮なく言わせてもらおう』
次に彼女と会うのは
バーボンとしてか
降谷零としてか
それ以前に
また
逢えるのだろうか…
言いようのない不安が頭を過ぎる。
その時、電話が鳴った。
僕のではない。
彼女の電話だ。
表示られている番号を見て
咲哉は一瞬、眉をひそめた。
『すまない、少し黙っていてくれ』
「分かりました」
咲哉の顔付きが変わる
この顔はアイリッシュだ。
恐らく、組織の誰かからの電話だろう
『私だ』
『あぁ、生きているさ』
『そうか…わかった』
『私を忘れるなよ』
短い会話のみで切れた電話
相手は誰だ?
『気になるか?』
まただ
心の声に応えるかのように咲夜が言った。
「気にしないと言えば嘘になりますね」
『素直に気になると言えば良い』
「言えませんよ…」
『それが、お前らしいと言えばお前らしいか』
結局、相手が誰なのか
素直に聞けないまま
咲哉が指定した場所に到着してしまった。
あっという間の時間だった。
だが
十分過ぎる時間だった。
車を停め窓越しに辺りを見回す?
「本当にここで良いんですか?」
富裕層が住むような一等地
高層マンションが建ち並ぶ地域だ。
深夜ともあって街灯のみが道しるべとなり
人通りはほとんどなくしんと静まり返っている。
『大丈夫だ。私は基本的に夜しか彷徨かないからな。これくらいの時間の方が慣れている』
慣れているとは言えど
女性が1人でこの夜道を歩くのは危険だ。
「心配です…もし、何かあったら…」
『本当にお前は…』
本音が勝手に口から溢れたその瞬間
カチャッとシートベルトが外れる音がしたかと思えば
彼女の香りが近づき体を抱き寄せられた。
『零、少しは私を信用しろ。大丈夫だ。私は…大丈夫だ』
ゼロの距離
頰と頰が重なり耳元で囁かれる言葉
全身の熱が込み上げてくる。
無意識に彼女の背中に腕を回す。
「咲哉。約束して下さい。また僕と一緒に…星を見ると…」
『勿論だ。約束しよう』