第12章 魔女と夜空
夏の夜空は好きですか?
「着きましたよ」
彼女が望んだ景色の綺麗な場所。
山の中腹にある展望台
騒がしい都会も遠く離れれば静かで美しい光の海だ。
だが、僕が見てほしいのはそちらではない。
彼女は人工的な光よりも
きっと…
『綺麗な星空だな』
「貴女は昔から星が好きだったでしょう?」
『覚えていたのか…』
「もちろんですよ」
彼女は星空が好きなのだ。
はくちょう座、さそり座、こと座、わし座
そして
夏の大三角形
ベガ、アルタイル、デネブ
昔、教えてもらった星々が夜空を彩る
『長らく星を見ていなかったが、やはり美しいな』
「そうですね」
確かに美しい星空だ。
しかし
咲哉の方がその何倍も美しい。
つい、魅入ってしまう横顔
『零、見てみろ。月も出ている…三日月だ!』
咲哉は夜空を指差し楽しそうに続ける
『知ってるか?三日月はそう簡単には見れる物ではないんだ。私たちは運が良い』
少し興奮しているのだろう
いつもとは別人のように無邪気だ
『満月も良いが、三日月も美しいと思わないか?』
満面の笑みで問いかけられ
自然と頰が緩む
そして
一度、瞼を伏せ
真っ直ぐ彼女を見つめた
「今夜は……月が綺麗ですね」
『お前と一緒だからだろう。いつもより美しく見える』
彼女はこの言葉の意味を知っているのだろうか…