第11章 魔女と太陽
何故か周りが騒ついている。
どうやら風変わりな来客があったようだ。
「凄い美人がロビーに来てるらしいぞ!」
「本当か?」
「風見が声をかけられたそうだ!」
皆、その美人とやらの話題で盛り上がっている。
「降谷さん!!」
仕事を終え帰ったはずの風見が慌てて僕へ駆け寄ってきた。
例の美人とやらに声をかけられたとこの瞬間だけ風見は有名人だ。
「どうした?美人に声をかけられて言い寄られでもしたか?」
少しからかってやる
それくらい良いだろう。
今日はいつもより早く仕事を終え家路につくところだ。
組織のバーボンとしての仕事もない。
平和な1日だ。
「それが…その方が降谷さんに用があるみたいで…」
「僕に?」
驚いた
こんなところに自分を尋ねてくる人物なんて心当たりがない。
それも、皆が騒ぐほどの美人
ベルモット…ではないだろう…
一抹の不安が過ぎる
「咲哉という方で…名前を言えば彼は分かると…」
「…咲哉?」
咲哉…がここに?
半年前、組織の一員アイリッシュとして任務を遂行し
焼け落ちる館から共に逃れ…
そのまま
行方知れずとなり
その後
どんなに探しても見つからなかった咲哉…
「本当に咲哉と名乗ったのか?」
「はい…もし、人違いであれば…」
「いや、大丈夫だ。彼女はどこに?」
「一階のロビーに…」
「わかった」
冷静になれ
咲哉が生きていたと確信するにはまだ早い
この目で確かめなければ確証は得られない。
風見と共にエレベーターに乗り込む
鼓動は早くなるばかりだ。
「降谷さん、あの…咲哉という方とは…」
いきなり風見に声をかけられ我に返る
「古い知人だ」
嘘は言っていない。
そう幼い頃からの古い知人…
エレベーターはあっという間に一階へ到着した。
「降谷さんあちらの方です」
風見が促す先に見えたのは黒髪に白い肌
そして金色の瞳を持つ女性
咲哉その人だった。
僕たちに気付くと
彼女は椅子から優雅に立ち上がり
こちらへ体を向けると優しい笑みを浮かべこう言った。
『久しぶりだな。零』
全ての時が止まったように感じた。
彼女と顔を合わせる度に
僕の心は彼女に奪われていく。
平和な1日というのは訂正しなければならなくなってしまった。