第10章 魔女と炎
偶然など存在しない
全ては運命
必然だ。
「派手にやってくれたじゃねぇーか」
助手席の座席を倒し横になっている私にジンが声をかける。
火傷の跡は既に無くなっていたが
まだ、皮膚が焼けた痛みが残り思うように体が動かない。
やはり、私の体は炎に弱いようだ。
『事故に見せかけろと言ったのはそっちだ。面倒だったから焼いた』
それ以外にも時間さえあれば手段はいくらでもあった。
しかし
予想に反し、相手はこちらの情報を知り得ていたため
強行するしかない状況に追い込まれていたのは事実。
簡単には遂行できない殺 人なんて私ににとっては
ただただ面倒な行為だ。
善悪など考えていてはいけない。
考えてしまったら
私は限りなく黒
白い淀みのない真っ黒
『私の確保はベルモットにでも頼まれたのか?』
「さぁな」
『どいつもこいつも…』
ジンが個人的に動いたのか
あの人やベルモットが支持したのかはわからない
ただ
この組織は私に対してやたら過保護だ。
こんな
人間にもなれない
中途半端な生き物のために
強大な力を付けつつある組織の中枢が動くなんて…
『世の中も平和だな』
「よく言うじゃねぇーか」
『生きてきた時間がお前らとは違い過ぎるんだ』
幾度となく人間は争いを繰り返してきた。
毎日、火の海であった時代もある
毎日、銃弾が飛び交い、虐殺が横行していた時代もある
それに比べれば
現代は平和だ。
「ところで…その格好はどうした?誘っているじゃねぇーか?」
『あぁ、服なら焼けた。これはバーボンの物だ』
ジンが怪しく喉を鳴らした。
そのうち返すか
この上着
少し汚れているだけで
綺麗なままだ。
微かにバーボン…いや、零の香りがする。
『私はここで降りるぞ』
「釣れない女だ」
きっと私と一晩過ごす予定だったであろうジンに自宅近くに車を停めさせ
最後にサービスをしてやる。
『またなジン。助かった』
真夜中といえど
この格好のまま夜道に長くは居ることはできない。
簡単に別れを告げ
頰を撫でてやり、その唇に口付けを落とした。